異世界コミックの世界 ~ヒット作への近道~

異世界ジャンルの読者の傾向
青年誌や少年誌に掲載されるコミックは、今や大衆性が増し、男女の垣根を越えて広く受け入れられています。代表的な作品としては「呪術廻戦」や「推しの子」、最近では「SAKAMOTO DAYS」や「メダリスト」などが挙げられ、男女問わず読まれている傾向があります。それでは、異世界ジャンルについてはどうでしょうか?今回は、異世界ジャンルの世界を覗いてみます。

結論として、異世界ジャンルは極端に偏る傾向があります。上図は、全出版社の直近1年間に購買のあった異世界ジャンルのコミックタイトルの散布図データです。縦軸が平均年齢、横軸が男女比の比率を表しています。〇の大きさは購買ユニークユーザー数を示し、複数巻を購入していても1人としてカウントされています。〇が大きいほど購買者数が多いコミックです。左に行くほど男性読者が多い作品、右に行くほど女性読者が多い作品となっていますが、世界地図の太平洋のように真ん中がぽっかり空いているのがわかると思います。これは中央が男女比50%の作品であることから、男女ともに受け入れられている作品が少ないことがわかります。ちなみに、購入者の平均年齢は46歳で、女性の方がやや年齢層が高い傾向にあります。
異世界の世界において男女比50%の稀有な存在
異世界ジャンルでは、男女比が極端に偏る傾向にありますが、その中で男女比50%に近い稀有な作品も存在します。稀有な存在/第3位。2作品同率ですが、男性比率49.6%:「神に愛された子」氷野広真、鈴木カタル(アルファポリス)、男性比率50.4%:「虐待されていた商家の令嬢は聖女の力を手に入れ、無自覚に容赦なく逆襲する」岸本さとる、てんてんどんどん(秋田書店)の2作品。稀有な存在/第2位は、男性比率50.3%:「森の端っこのちび魔女さん」夜凪(TOブックス)。異世界ジャンルにあって、男女比率が50%に近い稀有な作品の栄えある第1位は、男性比率50.1%の「もふもふと異世界でスローライフを目指します!」寺田イサザ、カナデ(アルファポリス)となりました。

ヒット作の方程式とは⁉
男女両性に受け入れられる作品は少ないですが、男女比がより中央に寄り、さらに年齢層が低いほど〇が大きい傾向、購買者数が多い傾向にあります。「転生したらスライムだった件」川上泰樹、伏瀬(講談社)は、男性比率69.1%で平均年齢42歳。「薬屋のひとりごと」ねこクラゲ、日向夏(スクウェア・エニックス)も男性比率29.9%で平均年齢は42歳と平均を下回ります。少なくとも3割は別の性別の支持も得ており、多くの人に読まれている証です。このようなポジションにある作品を特定して研究・分析をすることで、ヒット作を生み出す近道となるやもしれません。また、出版社ごとの傾向も異なるため、出版社別にみても面白いデータです。方針や方向性の決定にお役立ていただけるかと思います。
