TSUTAYAえほん大賞によるユーザー行動の変化

書店の売場において、「賞」は確実にひとつのフックとして機能しています。なかでも絵本ジャンルは、購入者が“自分で読む”だけでなく、“誰かに贈る”という文脈を強く持つ市場。そのため、話題性や信頼性が購買に与える影響は特に大きい領域といえるかもしれません。

では、実際に「賞」はどの程度、売上や購買行動に影響を与えているのでしょうか。本記事では、TSUTAYAえほん大賞を対象に、発表前後の売上変化および併買傾向を分析。データから、その影響力を読み解きます。

TSUTAYAえほん大賞とは

TSUTAYAえほん大賞は、カルチュア・エクスペリエンス株式会社が主催するアワード。「自分の子どもに読み継ぎたい」「50年後も読まれていてほしい」という願いを込めて、直近1年間に出版された絵本の中から、将来的にロングセラーとなり得る作品が選ばれます。

投票は全国のTSUTAYA・蔦屋書店の児童書担当者によって行われます。受賞作品は、全国の店舗で大きく展開されることもあり、単なる“受賞”にとどまらず、売場と連動したプロモーション施策としての役割もになっています。実際に、過去の大賞作品では発表前後で売上が大きく伸長する事例も。

2025年には第6回が開催され、刊行直近1年間(2024年8月1日〜2025年6月30日刊行)の作品の中から選定されました。

TSUTAYAえほん大賞前後における売上伸び率

(CANTERA調べ)

それでは実際に、大賞発表前後での売上の変化はあったのでしょうか。CANTERAデータより、受賞作品および上位作品の発表前後30日間の売上冊数を比較してみます。

注目なのは、大賞を受賞した「クジラがしんだら」江口絵理・かわさきしゅんいち(童心社)のみが伸びているわけではないところ。すべての作品の売上が伸長しており、その伸び率の規模も大きいことが特徴として挙げられます。

2位の「おせち」内田有美・満留邦子(福音館書店)では1,600%超、5位の「おやつどろぼう」阿部結(福音館書店)や7位の「どろぼうねことピヨピヨ」こまつのぶひさ・かのうかりん(文芸社)では400%超の伸び率となっています。

「受賞そのもの」だけでなく「ランキング全体」が売上を押し上げており、TSUTAYAえほん大賞が単一作品のヒット創出にとどまらず、ノミネート作品全体の露出機会を増やす役割として機能したといえます。

併買傾向から見えるTSUTAYAえほん大賞の影響力

(CANTERA調べ)

これらの影響力は購買行動の変化からも確認できます。同時期に併買した作品のデータをランキング形式で抽出したところ、大賞発表前後で明確な変化が見られます。今回は一例として、大賞上位にランクインした以下の作品を対象としてピックアップ。それぞれの作品について、対象発表前後1ヶ月の併買商品のデータを集めました。

・「クジラがしんだら」江口絵理・かわさきしゅんいち(童心社)
・「どろぼうジャンボリ」阿部結(ほるぷ出版)
・「トドにおとどけ」大塚健太・かのうかりん(パイインターナショナル)

発表前は、「定番絵本」「キャラクター作品」「教養・知育系」といった商品が並び、ジャンル横断的な併買が中心でした。一方、発表後はえほん大賞ランキング内の作品が顕著に増加しています。これは「1冊をきっかけに、ランキング全体をまとめて購入する動きが生まれている」と読み取れます。

今回の分析から、TSUTAYAえほん大賞は売上の伸長だけでなく、作品同士の広がりも生み出していることが見えてきました。一冊との出会いが、また別の一冊へとつながっていく。TSUTAYAえほん大賞は、そんな新しいえほんとの出会いのきっかけとなっていそうですね。

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